免疫老化のメカニズムの解明(京都大大学院医学研究科の湊教授ら)
湊長博 教授(京都大大学院医学研究科)らの研究グループは、加齢に伴って確実に増加する全く新しいT細胞集団の同定に成功したとの研究成果をリリースしています。
この研究内容は、「PD-1+ memory phenotype CD4+ T cells expressing C/EBPα underlie T cell immunodepression in senescence and leukemia」(Kenichiro Shimatania, Yasuhiro Nakashimab, Masakazu Hattoric, Yoko Hamazaki, and Nagahiro Minato )として、米国科学アカデミー紀要のオンライン版(9月7日付け)に掲載されています。
これまでに年齢を重ねると免疫機能は、外来病原体に対してのワクチンが効きにくくなったりなどの獲得免疫応答が悪くなったり、過剰な炎症反応傾向といった特徴を備えた変化を示すことが知られています。
この現象は、「免疫老化」と呼ばれています。
従来から、この免疫老化は、免疫細胞(とくにTリンパ球)の全体的な機能劣化によって生じるものと考えられていましたが、その詳細なメカニズムは知られていませんでした。
今回の湊教授らの研究では、PD-1というマーカーを用いて、若齢時には存在しないが加齢に伴って増加する全く新しいTリンパ球集団(PD-1陽性Tリンパ球集団)の正体を突き止めることに成功したもの。
湊教授らは、獲得免疫の中心的役割を担うT細胞について、成長に伴う変化をマウスで調べた。
マウスが生まれてからの若い段階では、T細胞にPD-1陽性Tリンパ球集団は、ほとんどないが、加齢に伴って増加し、人で75歳にあたる20カ月目には、約6割に認められたとのこと。
このPD-1陽性Tリンパ球集団は、通常のTリンパ球が備えている獲得免疫応答能を完全に欠質しており、かわりにマクロファージなどの自然免疫系の細胞が作るオステオポンチンという強力な炎症性サイトカイン(指令・情報を伝達するタンパク質)を大量に産生する特質を持つことがわかったとのこと。
このようなPD-1陽性Tリンパ球集団の特異的な機能的変化は、主にC/EBPαという遺伝子の発現に起因しているとのこと。
C/EBPαは、マクロファージなどの骨髄球(白血球)の分化と機能を司るマスター遺伝子であり、通常のTリンパ球には、発現されないもの。
加齢のマウスで、PD-1陽性Tリンパ球集団以外のTリンパ球は、若齢個体のTリンパ球と同等の機能を十分に保持していることも明らかになった。
したがって、免疫老化は、これまで考えられてきたようなTリンパ球集団の全体的な機能劣化によるものではなく、PD-1陽性Tリンパ球の割合の増加によってもたらされると考えられる。
またPD-1陽性Tリンパ球は、白血病の自然発症にともなって急速に促進されることが明らかになったとのことで、白血病のモデルマウスを用いて、若い個体でも白血病の発症にともなって急速にPD-1陽性Tリンパ球が増加し、強い免疫抑制状態に陥ることを見出したというもの。
以上のことから、この特定のTリンパ球集団(PD-1陽性Tリンパ球)をたとえば抗PD-1抗体などにより選択的に排除することができれば、老化やがんにともなう免疫系の機能低下を回復させうる可能性も示唆されるとのこと。
免疫系の「若返り」が可能になれば、高齢者の感染症予防や有効ながん免疫療法などの新しい治療法の展望が開かれると期待される。
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